受賞作品

※掲載にあたっては、読みやすさを考慮して加筆・修正した箇所があります。ご了承ください。

第9回最優秀賞  「あの日」の絆(群馬県/小幡由美子 様)

 二人暮らしになって、三度目の春ですね。両親を送り、息子も独立。あなたに「ありがとう」を伝えたくて、手紙を書いています。

 顔面神経麻痺―出産間近の早春。幸せに浸っていた私を突然襲った病魔。鏡に映る左顔面は、瞬きも口を結ぶ事も困難な不自然な表情に。心のバランスを失ってしまった私には、悲しいばかりの耐え難い“異形”に見えました。療養していた実家で、私は毎日泣き続けていました。あなたは仕事の帰りに、必ず立ち寄ってくれましたね。

 「大丈夫だよ。」と、麻痺した私の頬に自分の頬を重ねて慰めてくれました・・・。

 あれから三十二年。互いの困難に寄り添い、人生の波乱を共に乗り越える事が出来ました。『あの日』に、しっかりと結ばれた絆が、私達を強くしてくれたのでしょうか。

 人生の最終コーナーに差し掛かった私達。ラストランまで手を繋いで行きましょう。感謝しています。今迄も、これからも・・・。

第9回優秀賞  天国のあなたへ(神奈川県/茅根静代 様)

 そちらで幼い時死別したご両親に逢えましたか?思い切り抱きしめてもらいましたか?

 結婚前にお願いした約束“出て行けと言わないでね、暴力ふるわないでね、子供の前で喧嘩しないでね”結婚生活四十八年、良妻賢母とはほど遠い私を、歯がゆく思い腹の立つことも沢山あったでしょうに、その約束を守ってくれてありがとう・・・

 今も時々ビデオであなたに逢っていますよ。二人の可愛い孫との日々、明るく楽しそうなあなたの声や笑顔。幼い頃の苦労や悲しさを胸に秘めて生きて来たあなたは、人生の後半幸せだったわよね。やさしい笑顔の遺影がそれを証明してくれている気がするのです・・・

 いつの日にか、また出会える日まで私を忘れないでいて下さいね。

第8回最優秀賞  無題(広島県/有田梢 様)

 あなた、ごめんなさい。

 あなたは、本当はガンだったのです。

 病院で告げられた時、悩みました。気楽そうに見えるあなたがこと病気に対してどんなに小心か、よく解っていました。で、肝臓の疲れという事で押し通すことにしました。

 後二月の命。そして、あなたをダマしている。この事実に胸のつぶれる思いの日々でした。時々、裏の畑に出てわっと泣きました。そして、山水で顔を洗って家に入りました。

 毎日ウソを重ねました。辛いけどでも、貴重な毎日でした。あなたの希望は何でも通す。精いっぱいの看病をー。せめての思いでした。

 一年半。頑張って、そしてあなたは旅立ちました。

 ごめんなさい。あなたについたはじめての、たった一つのウソでした。

 そっちへ行っても、エンマさんに舌を抜かれたら言えないお詫びを、今、書いています。

第8回優秀賞  月がきれいですね(静岡県/小沢富士子 様)

月がきれいですね

 

ひと月のうち、二十回も違う人を連れて頼みに来たあなた。まだ若く愛が何かも知らない私は、母を介してお断りしました。

あの日あなたは、「最後にもう一度だけ二人で話をさせてください。」と頭を下げました。あなたは、「星の数ほど女性は居ますが、あなた一人を愛しています。」と声を震わせ言いましたね。こんなに言ってくれるのだからと、母にも勧められて、嫁ぐことを決めました。

癌と戦い、人生半ばでこの世を去ったあなた。あなたに一分一秒長く生きて欲しくて、私は男勝りに働いてできる限りの治療を続けました。口紅をさすことも忘れていた私を、あなたは再び二十回ももらいに来てくれるかしら?昔話を持ち出すと、「そんなこと言うもんか。」って、知らん顔していましたね。

最後に二人で病院の窓から見た月。私の肩にもたれて、「月がきれいだね。」って微笑みました。あなたは知っていましたか。夏目漱石は、アイラブユーをそう訳したのですよ。

 

第7回最優秀賞  命の学び(宮城県/感王寺美智子 様)

命の学び

 

 貴方と、ここ気仙沼へ来て、一年が過ぎましたね。「被災地へ行って、復興支援の仕事をしたい。」貴方が、そう言い出した時は、私は躊躇しました。癌を抱えている私が、被災地という大変な場所で、通院しながら、暮らしていけるのか?大変な思いをしている人達の中で、生きていけるのか?と。しかし、一年ここで暮らした今、貴方が、ここへ来たのは、私の為でもあったのだと気づきました。習慣性流産、C型肝炎、乳癌と、病のオンパレードになってしまい、貴方に申し訳なくて、別れを切り出した夜、「君は、病に負けない。きっと病から何かを学び生かす人だ。僕は君といて、それを見たいのだ。」貴方は、そう言ってくれましたね。そして私は、ここへ来て、生きることを学んでいます。仮設住宅で被災者の人達と暮らし、大きな悲しみや小さな喜びを分け合い、助け合って生きてゆくことの大切さを学んでいます。私は貴方と死ぬまで人生を学んでゆきたい。

第7回優秀賞  無題(神奈川県/影山寿美枝 様)      

 

 今ネ。お年を召したご夫婦が、寄り添いそっと手を貸し助け合う姿にであうと、心から羨ましく思います。長い間には色々あったとしても、乗り越え、歴史を重ねてきたお二人だと思えるからです。

 三十七才の若さで、私と二人の娘を残して逝ってしまった貴方。六十九才になった今、つくづく、貴方に隣に居て欲しいと思うのです。三十年も前に去った貴方は、年老いた私を判別できますか。天国で待っていてくださいますか。

 初恋同志で、自分はさておき、お互いに想いやった日々。生きていたら小さな諍いや浮気などで心乱れ、離婚の危機なんて長い年月にはあったかも知れませんネ。

 でも、今、この年になり、己の限界を知り独りの無味さを感じます。私の手作りの料理で食卓を囲み、歩んだ道のりを ”あなた” とゆっくり語りあいたいです。成人した二人の娘と増えた家族も交えて笑いながら。

第6回最優秀賞  あなたに(兵庫県/藤井照美 様 70歳)

 あなたに

 

 あなたが旅立ってもう五年。今でも側にいるようで「何してる」と声が聞こえて来そうです。原因不明のまま四十才で失明、幼かった三人の子供と途方にくれる私に「家族の誰かが失明するのなら自分で良かった」と、それからのあなたは病気を治せる鍼灸師になると、どこまでも前向きな頑張りに私も必死でした。自分の人生一からやり直しなのにその大変さを愚痴らないあなたの生活態度、考え方にすごい人だと感服すると共にとても尊敬していました。

 私は「奥さんが一番大変でしょう」の言葉が一番嫌でした。いつも手引きする私に「すまないなァありがとう」何度この言葉を聞いたことか。それに対し私からのありがとうは余りにも少なかったと今さら思うのです。

 今一度一瞬でもあなたに逢えるなら、私からあなたに何百回のありがとうを伝えたい。もう一度あなたに会いたい。出来るなら生まれ変わってもう一度あなたの奥さんにしてもらえますか。

第6回優秀賞  感謝を込めて(北海道/土尾里香 様 49歳)

 感謝を込めて

 

 私は神経にちょっとばかり問題を抱えている。突然、倒れたり、心臓が痛くなったり、吐き気に襲われたりする。体には異常がないのに、健康な人と同じ生活ができない。そんな私に代わって、仕事をしながら家事を手伝ってくれるあなたは大忙し。

 「迷惑かけてごめんね」って謝る私に、あなたはいつも「迷惑だなんて思ったことないよ」って笑うよね。私、それ、ずっと嘘だと思ってた。だってあなたは優しいから。

 でも、私、気付いたよ。もし、病気になったのがあなたで、忙しく働くのが私の方でも、やっぱり「迷惑じゃないなぁ」って。「大切な人のために何かできるなら、幸せだろうなぁ」って。今はあなたのためになにもできない自分だから、深く深くそう思ったよ。

 だから、もう「迷惑かけてごめんね」は言わないことにしたよ。

 代わりにこう言うよ。

 「あなた、ありがとう」

第5回最優秀賞  あなたへ(群馬県/市川久美子 様 55歳)

 あなたへ

 

 昨年、心不全から脳血栓、脳梗塞と病気の一年を過ごしたあなた。

 55歳まで病気ひとつせず、働く事を生きがいとしていたのに55歳の若さで脳に障害が残ってしまったあなた。

 働けなくなって、生活が大変になった途端身内もまわりの人も去って行ったね。

兄弟、姉妹も知らん顔で悔しかったね。

 でもネ、あなたが倒れて障害が残って、子供に戻ってしまって愛おしいとも思うわ。

「お父さんの脳梗塞小さくなぁれ」って私が毎日あなたの頭に手を当てるわ。

 今夜も手をつないで寝ようね。

 私だけはこれからもずっとあなたのそばにいて「お父さんの脳梗塞小さくなぁれ」って手を当てて行くね。

 元気な時にあなたの偉大さに気づかず病気になって気づくなんてゴメンネ。

 今までありがとう、これからもずっと宜しくネ。

 

第5回優秀賞  遠くて近いあなたへ(岡山県/小田久美子 様 48歳)

 遠くて近いあなたへ

 

 見えていますか、あなたの忘れ形見の晴姿。長身であなたによく似たスーツ姿の彼。そっと手を合わせ、成人式を迎えた報告を受けましたよね。宿ったばかりの小さな命と入れ代わるように突然不本意ながら旅立ってしまったあなた。二十年経った今でもあなたのことを思っています。月日が忘れさせてくれるという、まわりの言葉とは裏腹に、月日が経つほど悲しみは募ります。けれども心優しかったあなたが最後まで気遣ってくれた思いを支えにがんばっています。私が毎年寂しい思いをしないように、結婚記念日に彼を誕生させてくれましたね。その彼はひまわりのように明るくて、太陽のように温かい、私に生きる力を与えてくれたあなたからの最高のプレゼントです。いつも私たちを助けてくれてありがとう。あなたのこといつも感じていますよ。彼はこれからもどんどんあなたに似ていくことでしょう。楽しみです。

 

第4回最優秀賞  桜(大阪府/吉田薫 様 63歳)

 桜

 

 あなた、楽しい人生を今までありがとう。一日に一回冗談を言わないと頭が痛くなるあなたのつくった美味しい中華を配達していた元気な私が癌になり、あとわずかな命になるなんて、思っても見ませんでした。

 公園のあの桜の古木は固い蕾をいっぱい付けはじめました。毎晩、桜の傍を通って帰ってくるあなた。私がいなくなったあと、暗い家に帰るのかと思うと、そのことがつらいのです。

天国からパッと灯りをつけてあげたいな。

 桜の木の下に座ると、スッポリと陰に包まれて別世界みたいでしょう。

 お願いがあります。私の骨を一かけら、桜の根元に埋めてください。なるべく小さなかわいらしいのをお願いしますね。

 大好きなあなた。幹が二股に分かれて寄りそっているような桜と一緒に、天国からあなたを見守っています。

 

第4回優秀賞  あれからのその後Ⅱ(北海道/足立絹子 様 63歳)

 あれからのその後Ⅱ

 

 「家に帰ろうね」の言葉に驚くほど桟敏に首を動かし妻の目をジーッと見る。「私と一緒が良いよね」涙があふれそうで、次の言葉が出てこない。混乱期に「私は誰」と聞くと「う~ん判らないけど遠い親戚の人かな」って言ったあなた。スタッフに「ラブラブね」って言われる位仲良しなのだから夫とか妻とかそんなことどうでもいいよね。言葉は出てこなくなったけれど、あなたの思いは全部判るよ。私の思いも判るよね。それで充分よね。

 森の生活者ソローは「春という季節は、全てを一度許すために巡ってくる」といっている。寒い冬を越えてやってくる春に全てをまかせて、あるがままの姿で暮らしてみましょう。桜の咲く頃に可愛がっていた老犬のチョコと私、我家で待っているよ。「すぐに来るから待っててね」と手を握ると離さないあなた。後ろ髪を引かれる思いをしなくても良いように。